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カッシーナタヴィン

「揮発酸もあるし、豆も出るけど、絶対気に入ってもらえると思うので、少し飲んでみませんか?」 と当時(開業して間もない2019年初めくらい)の営業Hさんがsalvisに訪問してくれた際、たまたま持ち歩きをされていたワインが、カッシーナタヴィンのバンディータ。この手の味のふれ込みで、気に入った試しがなかったし、レストラン時代には間違いなく採用しなかったワインの代表格。ところがどっこい、ホントギリッギリのところで美味しいではなく、めちゃめちゃ美味しいにひっくり返るワイン。こんな経験は今まで初めてで、ほかほかの土を両手で汲み上げてる映像が浮かぶくらい、造り手の触感が伝わり、一粒一粒ブドウを大事にしているんだろうなと容易に想像できる味わい。多少のネガティブとされる要素を吹き飛ばすほどの存在感と包容力に溢れたワインなのだ。現にテクニカルな事などよくわからないし、イタリアワインは尚更よくわからないと狼狽する一般のお客様が、これは好き、理由はわからないけど好き、と即答で気に入ってもらえる。(まったくダメな人ももちろんいる。) 永遠に使い続けたいワインのひとつであることは間違いない。この日を境に飲まず嫌いがなくなり、確実にsalvisのラインナップに変革がもたらされた。エチケットを手掛けるジャン・ルカさんのイラストがまた、たまらなくいいのだ。

バンディータ/カッシーナ・タヴィン        イタリア ピエモンテ

コル・タマリエとの出会い

2018年1月に大阪某所の試飲会で初めてこのワインと出会ったのを覚えている。salvis をオープンする前である。今までに経験した、ペティアン、フリッツァンテのどれともちがっていた。あまりに衝撃的過ぎて、お行儀がよくないかもしれないが、その会が終わるまでに3回試飲して再確認したほどだった。「なんて心地の良いワインなんだろう、飲めば飲むほど新しい表情を浮かべてくるじゃないか。」私は約20年程ワインを扱う仕事に就いているが、これほど体の隅々まで爪あとを残された事がなかったし、後ろ髪を引かれまくって正直焦ってしまった。確実に心臓がドキドキしていたのだ。

今ここで味の分析だのテイスティングコメントを残すというよりは、実際に体で感じて欲しいタイプのワイン。すぐにドハマりしないかもしれないし、30分後や、翌日にその良さがジワジワやってくるかもしれない。葡萄の品種特性や、醸造のスペックだけでは計りえないワインと年に数回だけ出会うことがある。引き算の美学の中に、無数のアプローチが施されていて、実験段階であるにせよ、彼らがその時々で舵をきったワインに対する思いやりや、潔さのような、言葉にしにくい優しい感覚が、国境を越えた飲み手をひきつけているのだとしたら…  世界中でタマリエが飲まれれば、無意味な争いがなくなるんじゃないだろうか。とか。

 

この会を終えるころ、現場に居合わせたエージェントの社長さんに、「今年中にワインショップをオープンする予定なので、このコルタマリエをお店の顔として扱わしてほしいです。」とお願いしてみたところ、私との温度差もあり多少ひいた表情でいらしたが、快く承諾してくだっさって今に至る。年々人気が出て確保できる数も少なくなってきたが、あれから4年、今でも salvis の不動のエースといえば、このコル・タマリエなのである。